牙龍 私を助けた不良 下
「・・・・・ょ」
小さな呟きが聞こえたと思ったら、凜華が顔を上げた。瞳からは止めどなく涙が溢れている。
「・・・居たよ、居てくれたよ」
「・・・・・」
「──私が、要らないって、置いてきちゃっただけだから」
ゆっくりと、まるで言い聞かせて実感させるかのように言った彼女は、自嘲しているようだった。
それは、今までに何度か見たことがある、後悔や焦り、苛立ちが入り交じった自嘲の表情だった。
出会ってから、彼女は何度かそんな顔を見せることがあった。
初めて倉庫に連れて行った日。校門で俺たちが引き留めると、凜華は散々行かないと拒んでいた。しかし、その後あっさりとついてきた。
海に行った時。勇人と共に戻ってきた凜華の手を引いて、メンバーの集まっている広間に向かったとき。
文化祭、クラスにやって来た凜華と勇人と共に、屋上へ向かおうとしたとき。
凜華本人は無意識にしていただろう表情。それはきっと、彼女の本心を反映していたのだろう。