私は彼に愛されているらしい2
会話の内容もおそらく仕事のことが含まれていたんだろう。もしくは家庭持ちならその話題も出てくるに違いない。同じキャンバスで笑いあっていた頃と比べて少し年齢を感じる話題になるのは当然だろうなと有紗は納得した。

大輔が言いたいのはそういうことだろうと感じていたからだ。

そう言えば自分も何度となく友人の結婚式に出席したが、だんだんと現実味を帯びた悩みや愚痴が増えて、あの頃の様な馬鹿馬鹿しい話題は減っていったように思う。それはそれで楽しかったりするのだけど、年を重ねたんだなとしみじみ感じた。

そんなことを思い出して有紗は苦笑いをする。

「有紗。」

「んー?」

「俺、今からプロポーズをしようと思う。」

「は、え?はい?」

ちょうど晩ご飯を食べ終えてそろそろお風呂の準備をしようかと立ち上がった時に宣言された内容は有紗の思考を見事に停止させた。片手には空になった食器、もう片手には最近買い替えたばかりの新しいスマホがキラリと光る。

ネイルも手入れしたばかりで今の有紗の手元は一番輝いている日だ、しかし花舞うようなご機嫌気分はこの着信をもって落ちたのだけれど。

「えっと、そうなの?…頑張って。」

突然の爆弾宣言にうまく対応できず、とりあえず有紗は労いをと応援をしてみた。何の中身もない、本当に言葉だけの浮ついたものだ。

だって無理だろう、いきなりプロポーズすると言われても頑張ってとしか言いようがない。ただ困惑する頭の片隅で、そういえば今日は結婚式だったと冷静に状況を再認識した。

ああ、あてられたんだな。

幸せそうな新郎新婦を見て寂しくなり自分の家族を作りたいと単純に思ったんだろう。気持ちは分かる、盛り上がって変な妄想をしたことだって有紗にもある。

しかしそれを実行するなんて、どれだけ単純な奴なんだと少しため息が出そうになるのを堪えた。

結婚式に参列するのは初めてじゃないだろうに、一体どれほど感動したのか。そして間違いなく大輔はかなり酔っぱらっているのだということも確信した。

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