私は彼に愛されているらしい2
厄介な電話に出てしまったな。

そんな感覚に捕らわれるが出てしまったものはしょうがない。迷惑な話だとため息をついて固まったままの体を動かし、シンクに食器を置きに向かった。

あれ、でも待てよ。

大きな疑問が浮かんで有紗は片眉を上げる。盛り上がるだとかなんとか言う前に大輔には恋人がいなかった筈だ。元カノにでも玉砕覚悟で申し込むつもりなのかと有紗は首を傾げた。

それってある意味凄くないか?

面倒くささから一変、有紗は何かのドラマを見ているようで急に面白くなってきた。他人事の冒険はなんとわくわくすることだろう。

ちょっとその辺を詳しく聞きたい。

明らかに頬が上がりテンションが上がった表情の有紗はさらに突っ込もうと口を開くが、それはあえなく大輔に遮られてしまった。

「今何してた?」

話が変わったことからも、とりあえずの決意表明をしたかっただけかと心の中で舌打ちをする。

残念だ、少し浮かんだ疑問と暴れだした好奇心を解消できない気持ちを抱えるのはかなり心地が悪いものなのに。

しかし酔っぱらいに噛みついたところで何もいいことが無いと有紗は諦めた。どうせ大輔のことだ、無かったことにはしないだろうし。後日の報告を待つことにしよう。

「晩ごはんを食べ終わって食器片付けるとこ。そんでお風呂入ろうとしてたとこ。」

これからの予定をだらだらと話してさりげなく忙しさをアピールしてみる。

私は忙しいのよ、酔っぱらいのあなたの相手をしている暇はないのよ。どこまで通じるかは分からないけど、多分通じないだろうけど一応伝えてみた。

早く切りたいな、そんな思いが広がっていくが容易く切らせてくれそうにない。

どうせ切らせてくれないならプロポーズ話の続きを聞かせてほしいのに。

「有紗。」

「何?」

少し間を置いて名前を呼んだ大輔に力のない返事をする。今の有紗の集中は電話ではなく手元の重ねたお皿に注がれていた。慎重に割らないように腕をぷるぷるさせながら台所に向かう。

あと数歩でシンクに辿り着きそうだ、最後のひと踏ん張りをした時に耳元で密やかな声がかけられた。

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