私は彼に愛されているらしい2
舞から見ても東芝が有紗を可愛がっていたことはわかる。

そんな相手に対しての発言とは思えなかった。

「ちょっと…有紗が犯されたらどうすんのよ。」

「犯されるってのはそういう場にいたってことでしょ。公衆の面前で犯す馬鹿はいないし、そんなことしたらマジで犯罪だし。苛立って女犯す奴に興味はない。そんな場所にのこのこ行くような女にも興味はない。防犯意識の問題です。」

当然の様に、だが低く抑えた声で話す東芝の言葉に返すものがない。

少し言葉が砕けたのは繕わない東芝の本心であると舞にも伝わった。

つまりはその時が来れば東芝は有紗でさえも見捨ててしまうということだ。

「持田さんは隙があり過ぎ、意識しなさ過ぎ。可愛さと馬鹿は紙一重です。」

完全に固まってしまった舞とは対称的に東芝は立て掛けてあるファイルを取り出して仕事を進めていく。

どんな時も無駄なことはしない彼の仕事ぶりが
垣間見えたがそれどころではなかった。

「あと吉澤さんも過保護。相手はいい年した社会人なんだし、そこまで面倒見てどうするんですか。」

標的が自分に変わったと察するなり舞は構えて背筋を伸ばす。

「…性分よ。治したくても治せない性分。」

「見込みは?」

「少なくともどうしようもない奴には距離を置くわよ。」

「ふーん。」

そう言うと東芝は手帳を持って立ち上がり、そのまま部屋から出ていった。

開きっぱなしの東芝のパソコンの画面を覗けば会議の予定が表示されており、その時間は15分後に迫っているのが分かる。

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