私は彼に愛されているらしい2
その姿を安堵と心配、複雑な表情で見つめる人物がいた。

そしてその視線が次に向かったのは沢渡、その視線は鋭いものとなって人知れず彼を刺す。

「ふうん。」

感心したようなため息交じりの声は横にいた人物の気持ちをも表していた。

君塚と東芝、2人の視線を気にすることなく沢渡は吉澤と打ち合わせを続けている。

「持田さんとこ、ちょっと大変そうかもねー。」

「…それ、どっちの話です?」

「うん?どっちって、どっち?」

とぼけるような君塚に東芝は呆れながら目を細めて仕事に戻ろうと端末に視線と意識を戻した。

2人の心配はこの先彼らの予想通りの道を辿っていく、そんなことを今の有紗が気付く筈もなかったのだ。

兆しが見えたのはその翌日の事。

なんとか無事に図面提出を終えた一同は達成感と疲労感を抱えてそれぞれの片付けを行っていた。

今回図面にサインは出来たものの、最後まで自分が関われた訳じゃない悔しさが有紗の胸に強く痕をつける。

コピーした図面のサイン欄だけを切り取り自分の戒めとして手帳の中に挟んでおいた。

おそらく明日からは自分の失敗を又聞きした連中が面白おかしく遠目に見てくるのだろう。そんな周りに負けない為にも乗り越えることにしたのだ。

謝れるだけ謝った、あとは感謝の気持ちと結果を見せなければいけない。

「もっちー、お疲れ。」

「お疲れ様でした、沢渡さん。」

記録用にコピーした図面をファイルする作業は一番下っ端のやることだ、失敗への償いもあることから有紗はその作業を1人で行っていた。

ちょうどその作業がひと段落したところで片付けを終えた沢渡から声をかけられる。

< 174 / 304 >

この作品をシェア

pagetop