私は彼に愛されているらしい2
「今回の提出もキツかったね。無事に終わってホッとしたよ。」

「はい、本当ですね。」

これまでと変わらない様子で声をかけてくれることにほんの少し安堵していることは見せないようにした。

有紗がいつも通りでいないと相手に気を遣わせてしまうことが分かっていたからだ。

迷惑をかけてしまった相手に怯える気持ちはあるけれど、それも自分に課せられたものだとすれば乗り越えてつよくならなければ。

「誰かさんがドロップしたおかげでいつもの倍疲れた気分。」

「…はい、本当ですね。」

多少の嫌味を言われても受けて耐えるのもまた試練だと有紗は持ちこたえた。

「うそうそ!ね、お腹空いてない?この後ご飯食べに行こうよ。」

「…え?」

「せっかく解放感のある金曜日だしさ、俺へのお詫びだと思って。」

今までにも度々こうして沢渡から食事やデートにさりげなく誘われたことは何度かある。

しかしその気のない有紗は常にのらりくらりとかわしたり、直球に断りを入れたりと受け入れた試しがなかった。

少なくとも一昨日までの有紗であればすぐにでも笑みを浮かべて断っていただろう、しかし。

「…はい。いいですね、ご一緒します。」

沢渡の優しさに触れて有紗の心は大きく動いていた。

断り続けられていた沢渡も今のは聞き間違いではないかという驚きの表情を浮かべている。それが可笑しくて有紗は自分が優位に立った気分で嬉しくなった。

「駅前のお店はどうですか?お気に入りの店がいくつかあるんです。」

「あ。うん。じゃ、お任せしよっかな。」

「是非ご馳走させてください。」

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