私は彼に愛されているらしい2
「あの子、メールの返事まだ寄越さないから催促しようと思ってさ。でも忙しいから後にしてくれって。話す暇もないんだって追い払われた訳よ。」

「いや…舞さん。今は無理ですよ。」

違う室のみちるから見ても今の有紗を取り巻く環境は壮絶で、とてもじゃないがプライベートな話をする余裕もない筈だ。

「忙しすぎて話をする余裕なんか…。」

「沢渡さんと話す時間はあるのに?」

そう言った舞の視線の先にはさっきまではなかった沢渡の姿が有紗の横にあった。促されるようにみちるも同じ方向を見るが確かに沢渡とは言葉を交わしている。

しかも笑みを浮かべながら。

「仕事のついでなんじゃないですか?」

「どうだかね。」

完全に不機嫌になってしまっている舞はみちるの話に聞く耳を持たないようだ。

今の有紗の状態は何も特別な事ではない、プライベートな話を目的に時間をとるのと仕事の話の延長戦でちょっとした世間話をするのとでは全く違うものになるのだ。

それはみちる自身も何度か体験していることだった、おそらく舞も同じ筈なのだが。

「そんなんだから男にだらしないって噂されんのよ。」

吐き捨てるような言葉に思わずみちるの思考も動きも固まってしまった。

今の台詞はなんだろうか、悪意を感じ胸がざわめいて仕方がない。舞がこんなことを言うなんてみちるには信じられなかった。

やはり立て込んでいるからか有紗と沢渡の談笑もすぐに終わってしまったようだがそれでも舞の腹の虫は治まらないのだろう。

苛立ちを含んだため息を吐けば荷物をすべて抱えて立ち上がった。

「今日は隣の大部屋で作業するわ。悪いけどお昼は1人で食べる。」

「…はい。」

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