私は彼に愛されているらしい2
機嫌の悪さを隠すことなく舞はそのまま大部屋から出て行ってしまう。

後味の悪さを引きずるみちるの所へ図面を持った片桐がひょっこりと顔を出して声をかけた。

「清水さーん?データ見つかった?」

「あ、はい。今回のステージ用に申請していたフォルダも作成されていました。」

「じゃ始めてこう。俺のが最優先だけどあと2人分任されるって話。」

「はい。片桐さんが最優先ですね。」

相変わらずの片桐節に思わず笑ってしまう。みちるの反応に気を良くした片桐は満足そうに笑みを浮かべて頷くと手にしていた図面を差し出した。

「吉澤さん、何かあった?」

直球に疑問を投げられて思わず固まってしまうが、正直なみちるの目は無意識に有紗の方へと泳いでしまう。

すぐに戻したものの、僅かな反応を見逃さなかった片桐は意味深な納得の声をもらした。

「ふうん。」

「あ、いや、ちょっと機嫌が悪かったようで…心配ないですよ。お騒がせしました。」

「まあ女性のいざこざに首を突っ込む様な馬鹿はしないけど…ちょっと良くないんじゃない?」

見た目にも、そして周りに影響を与える空気もそうだと続けた片桐にみちるは唸り声をあげる。

「うーん…そうですよね。」

首を倒して困ったもんだと考えるみちるの耳に聞き覚えのある高い声が2つ重なって聞こえてきた。

それはいつも似たような時間に循環してくる庶務業務を買って出た西島と彼女に常に寄り添っている印象が深い秋吉だ。

2人は所謂ベテラン、お局ポストにいる人たちで多くの人の新人時代を世話してきた事務の母的な存在だった。

最初は誰もがその優しさにほだされていい人であると噛みしめながら日々を過ごしていくのだが、自分が成長していくにつれてその考えに首を傾げる割合が増えてくる。

彼女たちの存在意義を、そして彼女たちの仕事内容に対して一度でも疑問を持ってしまえばそこで終わりだった。

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