私は彼に愛されているらしい2
少数派で西島と秋吉をそのままいい人として思い続ける人たちもいる、その中の1人が有紗だ。

「歩くスピーカーが来たぞ。」

恐ろしく低い声で呟いた片桐の言葉にみちるはゾッとする。

「何あれ、信じられない。あんな態度ってある?」

「ねえ。こっちが何したっていうのよ。八つ当たり?」

「それ最悪。」

密やかな声で話しているつもりだろうが、よく通る2人の声は話が筒抜けになっていることが多かった。

大部屋に入ってきたばかりの2人の会話が出入り口付近の端末にいるみちると片桐に聞こえるのは可能性として低くはないが、普段から彼女たちの会話は通りやすい。

仕事の話もさながら明らかな雑談も筒抜けなのだが、彼女たちは長く務めている分触れてはいけないポジションに君臨している為殆どの者が口を出せないでいた。

指導できそうな役職がある面々も面倒だからと放置していたのが手伝ってかなり自由に過ごせているらしい。

今回の彼女たちの話はどうやら文句のようだった。

片桐はさっさとみちるから少し離れた誰かが放置したままの端末に座り仕事している素振りを始める。

「これは…。」

その行動の意味を理解すると同時に大部屋に入ってきた西島たちと目が合いみちるはとっさに笑顔を作った。

「西島先輩、秋吉先輩、お疲れ様です。」

挨拶をすれば満足する可愛らしい部分もある2人にはとりあえず目が合えば声をかける習慣が役に立ったようだ。

「清水さん、お疲れー。」

いつも前に出るのは西島だ、今日もそれは変わりないようで遅れて秋吉が微笑んでお疲れと言葉を添える。

「ねえ、清水さん。吉澤さんって機嫌悪いの?」

「え?」

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