私は彼に愛されているらしい2

4.置いた距離の分だけ

噂というのは本人の意思とは関係なく面白おかしく広がっていくものだ。

特にその相手が自分と関わりが薄すぎず、濃すぎない中途半端な関係が一番危うかったりもするのだ。

ある程度その人を知っている、それが余計に噂を色濃くややこしくしていく原因の1つでもある。

「さっき売店行ったら沢渡とあの女の子一緒にいたぞ。」

「ああ、東芝さんの弟子だろ。沢渡の彼女じゃねえの?」

「あいつずっと狙ってたっぽいからな。ついに落としたってことか。」

「俺あの子って東芝さんの彼女だと思ってた。」

「あれ?あの子って確か社外に男いなかったっけ?ちょい前に西島女史がやっと出来たみたいよ~って触れ回ってたぞ?」

「案外さ、全部本命じゃないパターンかもな。」

社内の男女比率は圧倒的に男性の方が多い、どちらかと言えば女性の方がこう言った噂の対象にされやすいのだが有紗は見事にハマってしまったようだった。

「あーもう、煩いな。どいつもこいつも。」

端末で作業をする舞がため息を吐きながら不機嫌な声を出す。その理由はさっきまでどこかの男性陣が話していた有紗と沢渡の噂話だった。

忙しいから話は後にしてくれと断られて以来まともに舞と有紗は会話をしていない。

それは有紗が昼食を挟んで出張であったり、昼間で押して打ち合わせをしていることが原因だったがそれだけではないと舞も分かっている。

メールの返事もまだもらえていないからだ。

忙しいだけが理由じゃない、どう考えても自分が後回しにされていると分かっているから苛立ちが止まらないのだ。

「あれだけ相談に乗ってやったのにこの扱いは無いんじゃない?」

昼休み、舞は食堂でカレーをつつきながら治まりきらない怒りを言葉にして吐き出した。

< 188 / 304 >

この作品をシェア

pagetop