私は彼に愛されているらしい2
東芝の指示に従い動いていく、舞はそんな有紗を横目で見ながら自分の仕事を進めた。

忙しすぎるのが目に見えて分かるからか、君塚も最近では話しかけようとしていない。

ほんの少しだけ、有紗が一息つける瞬間がある筈と気にしていてもその隙間にうまく入り込む人間がいるのだ。

「もっちー。一段落した?」

ペットボトルのお茶を片手に有紗に近付くのはいつも沢渡だった。

「沢渡さん、お疲れ様です。チョコ食べますか?」

「いいね。ちょうだい。」

にこやかな会話は半月前と比べるとまったく違う。

ナンパをされる途中のような関わりかたから親しみを持った関わりかたに変わっているのだ。

それは有紗だけに変化があったようにも思えるがそうではない、沢渡自身の振る舞いも違いが出ていた。

「あ、東芝さん。こっちの部位で変更があったんで後で時間いいですか?」

有紗の向かいにある自席に戻ってきた東芝にも仕事を絡めて積極的に関わるようになったのだ。

それが一番大きかった。

「変更って何?」

「相手の形状変更理由で長さと位置が変わります。」

「30分で終わるなら今から出来るけど。」

「すぐに持ってきます。」

あれほど警戒していた相手に堂々と踏み込んでいく様はまさに余裕が出た証であると、沢渡は東芝に認められた人物だという噂も同時に流れ始めている。

それも全て有紗と上手くいったからなのだと見事に全てをまとめられたのだ。

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