私は彼に愛されているらしい2
東芝は顔を向けて周りを確認すれば、幸いなことに出払っていて近くには誰も居なかった。ここで話してもおそらく他の人には会話は聞こえないだろう、そう考えて有紗と目を合わせる。

「仕事な話じゃないけど、少しいい?」

「え?…あ、はい。」

何を言われるのだろうと有紗は疑問と警戒を交えながら構えて次の言葉を待った。了承したが少しの後悔が聞く前から襲ってきているのは何故だろう。

「どう、俺が前に言ってたこと分かり始めた?」

「…前に?」

東芝には常に教えを貰っている分、前に言っていたことと言われると何を指しているのか見当がつかなくなる。

迂闊に間違ったことは言えないと懸命に自分の記憶を掘り起こして該当しそうな言葉を考えてみた。

そこで1つ思い当たった言葉を口にする。

「疑うこと、ですか?」

「人の中身を見抜くって言っとくかな。まあそんな感じ。」

有紗はもう一度東芝からの言葉を受け止めてゆっくりと頷いた。

「で、どうなの。進捗は。」

「進捗…ですか。そうですね…思い込み過ぎないようには気を付けています。」

「あとは?」

「あとは…。」

「見て見ぬフリをしてたところ、向き合ってみる気になった?」

東芝の言葉に目を見開くと有紗は口元に力を入れる。

射抜くような眼差しが痛い、全て見透かされていたようで恥ずかしさと後ろめたさが同時に襲ってきたような感覚だった。

どうしてこんなにも東芝の言葉は有紗の深いところまで切り込み染みていくのだろう。

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