私は彼に愛されているらしい2
彼女は平凡な女だ。いや、寧ろ少し退屈な方かもしれない。
見た目も普通、仕事スキルも普通、特技らしい特技もなければ趣味らしい趣味も無い。資格だって運転免許と至って普通な人材なのだ。
唯一のとりえがあるのだとすれば楽観思考。つまりは前向き、嫌なことは引きずらないってとこくらいだろうか。
馬鹿だと言われても彼女は自分が好き、これは唯一で最大の武器だと言えるだろう。それこそが特別。
欲を言えば彼女としては早めに誰かの特別になりたかったのだけれど。
「また駄目になったあ?」
人が少なくなったオフィスに職場先輩である吉澤舞の声が響いた。
今日は花の金曜日。飲み会やらデートやらで予定がある人も多く、オフィスは早めに人がはけて静かになる金曜日。
只今の時刻は19時35分で、少なくなったとはいえまだまだ残業時間も始まったばかりの時間帯には顔馴染みの人間もいて少し恥ずかしい。
明らかに良くない方向だと分かる叫びはちょっと困ったものだった。
そう。叫ばれたのはこの物語の主人公である彼女、持田有紗のプライベートについてだ。
「しーっ!声が大きいです!」
人差し指を口に当てるお約束ポーズをしながら有紗は周りの様子を窺う。
ちらちらと集まる視線に苦笑いをして向き直すと、声をおとした舞がまた口を開いた。ちょっと呆れ顔だったことに気付いた有紗は引きつった顔で口の端を上げる。
あ、何かくるな。
嫌な予感がして視線を上に泳がせた。
「あんた何回目?それってこの前の合コンで知り合った人でしょ?今回は感触いいって踊ってたじゃないの。」
「う…。」
額に人差し指を突きつけられて有紗は小さな唸り声を漏らす。
確かにそうだった。
合コンで知り合い、何度か連絡を取り合う内は好印象しかなかったから舞い上がったのは事実だ。
今回はいけるかもしれない、そんなことを口走っていたのも覚えている。しかし問題はその先に起こった訳で、それが今の有紗のテンションに繋がっていた。