私は彼に愛されているらしい2
「やっぱこっちのがいいかな。あーでもまだ寒いかも。」

クローゼットを全開にして有紗は腕を組んだ。

服を決めきれずに窓を開けて外の温度を確かめてから選択肢を狭めていく、季節は春に向かっていてもまだまだ気温は冬のままだからちょっと難しいのだ。

日差しは暖かい、でも風は冷たい。

移動は車に頼るだろうからそこまで厚着にしなくてもいいとは思うが、レストランの後にどこ行くかが分からない以上油断は出来なかった。

屋内、屋外、可能性を考えれば顎を引いて唸ってしまう。

様々な可能性があるなら体温調整できるような服装にしていくしかない、あとは髪形と化粧をどうしていくかだった。

「ゆるくまとめてこうかな…。」

髪をつまんで上にしたり横にしたりと形を模索した結果ざっくりと編み込んで1つのまとめることに決める。たまにはゆるい感じもいいだろう。

本当の事を言えば一番の理由はきっちりセットをして気合が入っているように思われたくなかったからだけど言わなければ分からない筈だ。

いつもより丁寧にマスカラを塗ってまつ毛を上げて、ルージュは春を意識した新商品を使ってみよう。机の上に置いた卓上三面鏡を覗きながら有紗は自分に彩りを付けていく。

でも。

「はあ…駄目だ。緊張して手が震える。」

これから大輔に会うと思うと心臓は忙しくなり飲み込む唾も苦く感じた。

胃液が上がってきそうな感覚に息を吐かずにはいられない。何回鏡の前で深呼吸を繰り返しただろう。

大輔に会うだけだ、恋人に会うだけじゃないかと何度も自分の肩を叩き続ける。

じわじわと襲いくる緊張の波はなかなか穏やかになろうとはしないらしい、こんなことは就職活動の最終面談以来の出来事じゃないかとさえ思ってしまった。

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