私は彼に愛されているらしい2
散らかしたままの部屋は気になるが片付けする時間は無い。メイク道具も悩んだ候補のコーデもやりっぱなしだがこのままにしていこう。

バッグを手にして中身を確認する。忘れ物は無い。

深く息を吸ってゆっくりと吐き出した。大丈夫だ、気合も入った。

「…行こう。」

ほんの少しお腹が痛いけど始まってしまえばあとは何とかなるものだ。まるで戦場に出向く戦士の様に覚悟を決めて有紗はドアノブに手をかけると部屋から一歩踏み出した。

扉を開ければ聞き慣れたエンジン音が響いてくる。

フレンチブルーのルノー、大輔の愛車が有紗を待っていた。

「…よし。」

大輔は車の中にいるようだ。有紗は鍵を閉めて気合を入れながら階段を下りていった。

フロントガラスの向こう側に大輔がいるのが分かる。

一方的に置いた距離、大輔の気持ちは一切無視して自分勝手に動いたことをどう思っているのだろう。

そんなことを今さら考え始め急に怖くなってきた。

思えば有紗は自分がどうするかしか考えていなかったのだ、大輔がどうしてくるかなんて一切気にしていなかった。

どうしよう、もし何か言われたら。

何かが何かも想像つかないまま緊張と不安が有紗の中でどんどん膨らんでいく、それでも足は逃げずに進み続け車の前に到着した。

久しぶりに見る大輔の姿は少しも変わっていない。

「乗って。」

視線だけでそう言われたように感じた有紗は助手席のドアに手をかけるとそのまま勢いに任せて乗り込んだ。

ドアを閉める重厚感のある音が戦いのゴングの様な気がして思わず息を飲んでしまう。

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