私は彼に愛されているらしい2
手元を見ていてもその景色に何の感情も動かない、意識は全て隣にいる大輔に集中していた。

「俺は別れないからな。」

目の端に映る大輔はまっすぐ前を向いていたような気がする。

信号が青に変わり大輔がクラッチを踏んでギアを入れ、車は再びエンジンを唸らせながら走り始めた。

いつもならMT車の格好良さを実感する瞬間なのに今は少しの心も動かない。むしろ真っ白だ。

大輔の言葉が頭の中で反響する。








全てが、崩れた気がした。







「…帰る。」

「え?」

「…っ帰りたい!」

涙声で震える有紗の声は車内にか細く響いた。

バッグを握りしめた手からギリギリと力のこもる音が聞こえてくる。涙こそまだ零れていないものの、声で泣いているとすぐに大輔にも分かった。

今は走行中、しっかりと有紗の方を見れていないが明らかな有紗の異変に大輔も動揺し始める。

長い付き合いの中で有紗が泣く姿を見るのは初めてだったのだ。

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