私は彼に愛されているらしい2
「帰りたいっ…家に帰りたい!」

「わ、分かった。いま向かってるから。」

有紗の希望を叶えるために大輔は慌てて左折をするとそのまま走り続けた。

隣で体を震わせて訴える有紗に焦りながらも大輔は確実に送り届けようと懸命にステアリングを握る。

幸いそんなに離れていなかったので5分とかからずに有紗のアパートに到着することが出来たが、焦りながらの運転は長距離運転の様に神経を遣い大輔はサイドブレーキを引くと思わず息を吐いた。

事故を起こさなくて良かった、そんなことを考えている間に有紗はシートベルトを外して車から降りていく。

横付けされるなり素晴らしい速さで飛び出した有紗の後ろ姿を大輔は呆然と見送った。

帰りたいと言ってから、いや寧ろ今日会ってから1度も大輔の方を見ることなく階段へと向かっていく。

鍵を探しているのかバッグの中を探りながらのため走れないようだった。

動けないままその様子を見送る大輔だったが、意を決したように顔付きを変えるとすぐさま車を動かし始める。

駐車場内ではないが構わない、駐禁を取られようが構わないと乱暴に空いたスペースに車を停めて急いで降りると走り出した。

有紗はもう部屋の前で鍵を開けているところだ。

どうやら焦りが部屋の鍵をうまく開けさせてくれないらしい。

ようやく開いて玄関に入り扉を閉めようとしたところで大輔の手がそれを許さなかった。

あともう少しで扉が閉まる場所まで来ていたのに大輔が強引にもう一度大きく開いていく。

攻防するだろうか、そんなことも考えたが全て後ろ手でしていた有紗にはそこで戦うつもりはなく、あっさりと手を離して部屋の中に入っていった。

ここに来ても有紗は大輔の方を見ようとはしない。

最初は勢いよく部屋に入ったものの、リビングの中程で力尽きるように座り込むとその体勢のまま有紗は大きな声で泣き始めた。

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