私は彼に愛されているらしい2
「うわあああ!」

まるで叱られた子供のように有紗は大きな声で泣き続ける。

「…有紗?」

大輔がそこにいても気にならなかった。

むしろ誰が近くにいてもここがどこであっても今の有紗にはそんなことを気にする余裕なんて微塵もない。

左手はバッグを握りしめたまま、右手で俯いている顔を覆いながら抑え込みすぎていた感情を必死に吐き出し続ける。

「うわあああ!」

悲痛なまでの有紗の泣き声は部屋の中に響いていた。

「有紗…。」

大輔の声も有紗の耳には届かない。

圧倒され玄関で立ち尽くしていた大輔はようやく靴を脱いで部屋の中に踏み入れた。

どうしたらいいのか解決策も思いつかないまま両手を広げて有紗を抱きしめる。

壊れ物に触れるかのようにそっと優しく包み込んでみたが、有紗は手を突き出して大輔の体を押し出した。

力強い押しに大輔の体は後ろへ倒れて尻餅をつく。

「うわあああっあああっ!」

変わらず泣きじゃくりながらも有紗は態度で大輔を完全に拒否した。

明確な言葉はない、しかし今の行動は有紗の心を表していたのだ。

認めきれない大輔は体を起こすと再びさっきの体勢に戻った。

「有紗。」

大輔はもう一度抱きしめようと手を伸ばして包み込む、やはりまた有紗に押し返されて離されてしまった。

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