私は彼に愛されているらしい2
2度目にもなるとさすがにとっさの反応とは思いにくい。間違いなく有紗は大輔を拒否しているのだ。

大輔は口元に力を入れて泣きそうになる自分を戒めた。

今の有紗に言葉を発する余裕は無い、叫びに近い泣き声は感情に少しの余裕もないことを訴えていた。

「有紗。」

もう一度、両手を伸ばして有紗を抱きしめる。

また同じ様に押し返されるが、それでも大輔は負けずに有紗を抱きしめ続けた。

離されないように体は踏ん張るが有紗を包む腕の力は優しいままに。

何度も何度も抵抗する有紗の片手は大輔の胸の辺りを押し続けた。

両手を使ってしまえば嫌でも視界に大輔の体が入ってきてしまう、有紗自身そこまで頭が回っていなかったが片手だけで抵抗する理由はそれだろうと大輔は感じていた。

何度も何度も押し続けられる度に有紗の気持ちが大輔の中に入っていくような気がする。

辛い辛いと手を押し出す力が訴えているようで大輔は居たたまれなくなった。

ここまで追い詰めていたのだろうか、いつもの前向きで明るい有紗はどこにもいない。

それは随分前から気付いていたことじゃなかったか、有紗の心からの笑顔を見たのはいつだったかと自分に問いかけても辛いだけだった。

この細い腕で懸命に自分を守ろうと大輔を押し続ける。所詮は女の片手の力、それでも痛くない訳じゃなかった。相手は全力なのだ、痛くない筈がない。

「うあああああっ!ああああああっ!」

綺麗な泣き顔なら見たことがあったと思い出すが、それは映画を観た後だったりドラマを見た後だったりと感動の涙だった。

こんな風に自分をむき出しにして泣く有紗をどう受け止めればいいのだろう。

あの言葉が引き金なら間違いなく有紗を泣かせたのは自分だ、大輔は戸惑いながらも有紗の抵抗を受け止め続けた。

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