私は彼に愛されているらしい2
4.理想の結婚

1.好きだから

月曜の朝は誰よりも早く出社をした。

君塚もいない、フロアの照明をつけたのは初めてかもしれないと有紗はぼんやり静寂の景色を眺める。

まだコンピューターの唸り音さえも聞こえないこの大部屋で有紗は唯一の音をたてた。

特にはりきるつもりもなく、いつものように流れ作業で仕事の準備を進めていく。

自席パソコンの電源を入れてロッカーにコートやバッグを入れにいって、服装や髪の乱れをチェックしてから再びフロアに戻った。

それでもまだ誰も出社していないようだ。

今日からまた長くて短い一週間が始まる。

資料を手にすると有紗は最奥の端末を起ち上げて仕事に没頭し始めた。

少しずつ人の気配が増えていってもお構い無く黙々と作業を進めていく。

「もっちー、こんなとこに居たの。」

手帳で肩を叩きながら現れたのは沢渡だった。話しかけられたのを機に時間を確認すれば9時に近い表示がされている。

「おはようございます、沢渡さん。」

「おはよ。今日10時からだよね?あ、隣いい?」

「どうぞ。10時に第2工場です。」

スケジュールを確認しながら有紗は散らかりつつある机の上を整理した。

「一生懸命やってるね。もっちーも知ってるんでしょ、この車の行く末。」

沢渡の言葉に手を止めると有紗は視線を手元から彼の顔へと移す。

その言葉の意味は色々取れるがおそらく沢渡が言いたいのは凍結の事だろうと有紗は静かに頷いた。

「はい、知ってます。」

「そんなに必死にやったって無駄じゃん。」

「でも私はまだ車両凍結を経験していませんから。だから本当に無駄かどうかを判断できないのでやれるところまでやることにしたんです。」

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