私は彼に愛されているらしい2
信じられないという様な反応を見せた沢渡はほんの少しだけ笑って首を横に振る。

そんなことをしなくても分かることは沢山あるだろうと態度で言っているのは分かるが有紗はそれを聞き入れようとはしなかった。

自分なりの考えを持っていたからだ。

「東芝さんにも伝えました。気のすむまでやっていいと言ってくれたので頑張ることにします。」

「…もっちーは真面目だね。」

「ですかね。不真面目ではないですよ。」

ニコリと笑えば有紗はまた自分の作業に集中し始めた。

もしかしたら次の車両は今と全く形が違うかもしれない、担当部位が変わるかもしれない、最悪は車両設計に当ててもらえないかもしれないのだ。

これが最後になる可能性を考えたら手を抜くことなんてしたくなかった。

あの大きな失敗がある以上、どう判断されるか分からない。もし設計から外されてしまった時に後悔しないよう精一杯やり遂げたかった。

お酒の場で、当時を思い出しながらあの車は大変だったと笑いあうベテランにどれだけ憧れただろう。

一番最初に配属された場所は部品の設計だった、そこから引っ張られて今の車両設計に移れたのだ。

離れたら2度と戻れない。

有紗の左手は無意識に胸元を握りしめていた。

服がよれて有紗の首もとに光るチェーンネックレスの存在に沢渡は気付く。

隠すように密かに存在していたそれを見付けて沢渡は目を細めた。

有紗のマウスを操る音が規則的に聞こえてくる、やがて有紗は立ち上がりプロッターの方へと歩いていった。

プロッターでは同じ様に自分の出力したものを待っている君塚がいて会話が始まったようだ。

まるで盗み見るように沢渡は有紗が広げたままの資料を眺めた。

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