私は彼に愛されているらしい2
勿論同じ車両を担当しているし一緒に作業している箇所もあるから別にやましいことがある訳ではない。

資料には有紗が懸命に仕事に取り組んでいる跡がいくつもあった。

それはメモであったり比較資料であったり、昔同じ様な場所を設計したことのあるベテランに話を聞きにいっているということも耳に入ってきている。

有紗はもういつかのような影を背負ってはいなかった。

「なんでかね…。」

そう呟いて頭を掻く沢渡の方が影を背負っているようだ。

起ち上がった端末にログインして沢渡もまた時間が来るまで仕事に集中しようと目付きを変えた。

「…だってよ。持田さんも意外とやるよな。」

ふと耳に入ってきた名前に反応して沢渡は視線だけで声の主を探ってみる。

どうやら後方の棚の前で立ち話をしている男性社員2人から聞こえてくるようだった。

「あの西島女史とやりあったのかよ!マジで!?」

「隣の棟のトイレだって。あの子気が強そうだからな。」

沢渡にも信じられない出来事だったが、目を丸くしながら彼らの話を聞き入ってしまう。

どうやら舞をめぐっての言い争いから始まり、仕事をしろと有紗が西島に言い放ったというのだ。

それには沢渡も口元に手を当てて驚きを隠せなかった、誰も触ろうとしなかった爆弾に着火しに行ったも同然じゃないか。

それ以来は西島と有紗の絡みを誰も見ていないので何とも言えないという。

次に2人が顔を合わせる時の瞬間視聴率は半端なく高いだろうと感心しながら彼らはその場から離れていった。

「…マジか。」

思わず口から零れた感想に次いで感心のため息が出る。

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