私は彼に愛されているらしい2
「沢渡さん、そろそろ時間ですよ。」

出力した用紙を手に有紗が戻ってきて手早く整頓を始めた。

「あ、ああ。」

全て片付けて自席に運ぶ有紗を横目にのんびりと自分の片付けを進めていく、何に痺れたのか沢渡の動きは鈍くなっていた。

「沢渡さん?」

既に工場にいく準備を終えて作業服も帽子も着ている有紗が首を傾げて沢渡を見上げている。

「ごめん、急ぐ。」

「東芝さんは遅れてくるらしいです。先方にも伝えてあるそうなので私たちだけで始めるらしいですよ。」

「そっか、分かった。」

急かされた訳ではないが、沢渡はすぐに靴を履き替え作業服と帽子を手にして歩き出した。それに続いて有紗も歩く。

移動は基本的に階段にしている沢渡は思わず癖で階段に来てしまったが、後ろを振り向いて目が合った有紗は驚いていた。

「わっ!どうしました?」

「あ、いや、ごめん。つい階段使っちゃって。」

「平気ですよ。私も普段下りは階段にしていますから。それに今更ですって。」

「今更?」

「だって沢渡さん、今まで問答無用で階段使ってたじゃないですか。」

笑顔で刺してくる有紗に沢渡は目を逸らして何も言えなくなる。

そういえばどうだっただろうかと記憶を掘り起こしてみても全く覚えがない。つまりは何も考えずに行動してしまっていたという事だ。

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