私は彼に愛されているらしい2
工場で2人で食事をすると言ってもだいたいは東芝が居なくなることを想定して沢渡がしかけているようなものだ。

しかし2人で弾む会話は確実に前より楽しくなって言っているという感覚もある。

前みたいに当たり障りのない返しをすることもなくなってきた、有紗から更に深く突っ込んでくることも増えたのだ。

「大分もっちーも東芝さん離れ出来てきたんじゃない?」

「東芝さん?あ、そう言えば前に沢渡さんが言ってたやつ。私が東芝さんを好きだって言う話。」

有紗は沢渡から東芝の話をふられた瞬間にあの日の出来事を思い出して表情を変えた。

少し怒っているような、いい話では無い様な雰囲気に沢渡もしまったと構えてしまう。

「私血迷っちゃって東芝さんに言っちゃったんですよ。好きなんでしょうかって。」

「は?疑問形?本人に?」

「はい。東芝さんには物凄くしょっぱい顔で恋愛感情は有り得ないだろうって切り捨てられました。とんだ恥かいちゃいましたよ。」

文句を言いたいのか愚痴を言いたいのか自分でもよく分からなくなった有紗はとりあえず報告だけをして自分自身の欲を満たした。

工場ならではのボリュームのあるカツカレーを順調に食べ進める有紗を見て沢渡は1人納得する。

あの日、東芝が有紗に入れ知恵するなと忠告するとともに毒を吐きにきたのはこういう背景もあったからだと思えば自分の空回り加減がよく分かるのだ。

「…ああ、成程。そういうことね。」

「はい?」

「いや。あのさ、今度チーフの出産祝い買いに行くんでしょ。ネットでもうやっちゃった?」

「いいえ。実際に物を見て選ぼうかと思ってますけど。」

「じゃあさ、その買い物俺も混ぜてくんない?連れが双子生まれたらしくて何していいか分かんないのよ。」

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