私は彼に愛されているらしい2
「もっちー、おはよ。」

「沢渡さん?ビックリした、待ち合わせ時間前に来るとは思いませんでしたよ。」

「仕事とプライベートでは気合が違うからね。」

そう言いながら笑みを浮かべる沢渡に有紗は苦笑いをするしかない。

「では行きましょうか。候補の店は3軒ほどあります。行ったり来たりすると思いますけど…大丈夫ですか?」

「おお。リサーチ済みとは有り難い。女性の買い物はそんなもんでしょ、大丈夫付き合えるよ。自分の分もあるしね。」

双子の出産祝いを思い出した沢渡は視線を上に逃がしてげんなりしてみせた。

どうやら苦手分野の買い物らしいと有紗は思わず噴き出してしまう。

「お互いにいいものが見つかるといいですね。まずはこっちです。」

進む方を指すと有紗はそのまま歩き始めた。

斜め掛けにしたカバンのベルトを握って人混みをかき分けながら目的の駅ビルの中へ入っていく。沢渡はしっかり付いてきてくれているようだ。

エスカレーターで暫く上っていくと最初の目的地が見えてきた。

「沢渡さん、ここです。」

「オーガニック…?」

「はい。オーガニックコットンの専門店です。ベビー用品では無添加が贈り物に好まれるんですよ。」

店の前で少し言葉を交わすと有紗は何も構えることなく店内に足を踏み入れていく、しかし異変を感じて後ろを振り向けば萎縮した沢渡が店の看板を見上げたまま立ち尽くしていた。

「沢渡さん?」

「あ、いや…ちょっと流石の俺も入りにくくて。」

戻ってきた有紗から目を逸らして呟きながら店内の方に目を向ける。

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