私は彼に愛されているらしい2
つられた有紗も改めて店内の様子を眺めてみれば、そこは優しい色合いの商品と赤ちゃんを抱えた家族、出産祝いを選んでいる女性がゆったりとした空間で品物を選んでいた。

木目調の棚、並んだ質の良さそうなタオル、ナチュラルカラーの子供服やベビー服、マネキンがあるとすれば赤ちゃんの小さなものしかない。

「1軒めですからね。3軒めになれば平気になってますよ。今日はこんな店ばっかりですけど…ここで待ってます?」

「…いや。…入る。」

長く息を吐くと沢渡はゆっくり店内に入って行った。

居心地悪そうな固まった体に有紗は思わず笑ってしまう。

「女性物の下着売り場でも平気そうなのに、こういうところは駄目なんですね。」

「ね。うん、そっちのがまだ平気。」

「期待通りのチャラさです。」

「え!?それってチャラいの?」

「どうでしょう。私は男子禁制派なので。」

食い付く沢渡とは対照的に有紗は商品を手に取りながら沢渡の顔も見ずに答えていた。

どうやら有紗の中でもう会話より商品選びの方が重要になったようだ。

手にしている商品は1つ1つナイロンで包まれていてそれなりの値段を窺わせる、しかし沢渡にはそれが何か全く見当が付かなかった。

「…もっちー。それ何?」

「スタイです。よだれかけ。」

「スタ…?」

「こっちはロンパース。」

同じ言葉を繰り返そうとして止めたのだろうか、沢渡の口が独特の形をしたまま固まってしまい眉間にシワが寄っていく。

どうやら目の前にしても物と名前が一致しないようだ。

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