私は彼に愛されているらしい2
「俺も結構お年頃だけどさ。」

「え?」

「周りが結婚して親からもせっつかれて…今回みたいに子供生まれたって連絡もらって。自分にはまだまだだと思っていたけど…。」

それは独り言のように小さな声で有紗にも辛うじて聞こえる程度のものだ。しかし何となく自分に語りかけられているような気がして有紗は沢渡の声に耳を傾けた。

「こういうのもいいなって…今はちょっと思う。」

声は確かに向かって来ているのに視線は遠く、店内を眺めたまま。

次第に優しくなっていく沢渡の表情に有紗は見惚れてしまった。

「それは…子供ってことですか?」

声を投げれば沢渡が振り向く、その瞬間問いかけてしまったことを後悔した。

「結婚とかさ、全部かな。こういう温かい空気にちょっと憧れた。」

それは今まで見たことが無い位に優しく計算の無い素直な微笑み、沢渡の心の柔らかい部分なのだとすぐに気付く。

カッコいいと言ってくれたあの時の表情とはまた違う沢渡の芯の部分に触れて有紗の心が揺れる。

「喜んでもらえる贈り物を見付けましょうね。」

「だね。選ぶ気持ちも変わってきたよ。」

有紗の動揺は気付かれてはいない、そうならないように必死に平静を装って話を終わらせる言葉を選んだのだ。

適度な距離を保って、今までの距離を忘れないように同じ時間を過ごしていく。

とりあえず3軒回って有紗は最後の店で木製のおもちゃを購入し、沢渡はもう一度オーガニックコットンの店に戻ることにした。

「つきあわせてゴメンね。」

「いえいえ。」

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