私は彼に愛されているらしい2
「喋り方とかね、振る舞いとか色々あるんだろうけど女の子には不自由してるよ。あの高嶺の花を落とした竹内に口説き方を教えてもらいに行こうかと思ったくらいだし。」

「竹内って…みちるさんと竹内さんの事ですか?」

「男連中の中じゃ竹内アカツキは神だよ、神。」

わざとやっかむ様な言い方をする沢渡に有紗は思わず噴き出してしまう。

実際に沢渡と仲のいい加藤という男性設計士が竹内に声をかけたところ、仕事をしてくださいと一蹴されて終わったと話を続けた。

「みちるさんは私の憧れです。強くて優しくて、あの雰囲気が好きなんです。」

「そっか。」

否定する訳でもなく、茶化す訳でも無く、有紗が言いたかっただけの言葉を受け止めて沢渡は微笑んだ。

そう、こういう反応をしてくれる人だと思ってもみなかったのだ。

有紗の中で沢渡という人物がどんどん変わっていく、本当の姿を知っていく事で見方が変わっていった。

「沢渡さんは憧れの人、いますか?」

「んー、俺?どうだろうな、嫌いな人ならいる。」

苦々しい顔をして視線を宙に逃がせば嫌な事でも思い出したのか不貞腐れたように頬杖をついてため息が出る。

その姿でも可愛らしく思えた有紗は微笑んで思いを口にした。

「嫌いな人って、案外一番好きな人だったりするんですよ?」

「…え?」

「もしかしたら…その人が沢渡さんの憧れかもしれませんね。」

有紗の言葉を受けてもう一度視線を宙に逃がして考えてみたが結果は散々だったようだ。

「無い。」

首を横に振って肩を竦めると沢渡は小さな声で否定をした。

沢渡と居る時間は穏やかで楽しい、そんな気持ちを抱きながら有紗はその時間に集中をした。

< 238 / 304 >

この作品をシェア

pagetop