私は彼に愛されているらしい2
「もう乗ってくれないかと思った。」

車をしばらく走らせたところで大輔が呟く。

なんの前触れもなく放たれた言葉に有紗は瞬きを重ねて大輔の方を見た。

今日会ってからどれくらい時間が経ったか、ようやく大輔をちゃんと見れた気がする。

「俺の車の話。」

「あ、ああ。そういうこと。」

「トラウマになってないか心配した。」

それに関して特に強い思いは抱いてなかったが渇いた笑いをするしか出来なかった。

あの時は自分に必死でどんな感情だったかも覚えていない。

泣き晴らして全て出しきったような感覚だったからスッキリしているというのが本音だった。

そう、会って話してみたら行く前のモヤモヤが嘘みたいに意外と平気な自分がいる。

だからといって前のように何でもないことを話続けるような気分ではないから黙っているだけなのだ。

「有紗、この前も話したけど。」

ふと大輔から緊張感のある声が聞こえてくる。

「結婚を白紙にしようと言っても俺は別れるつもりは無いから。だから前の様に友達に戻る気はないよ。」

おそらくタイミングを計って切り出したのだろう。

車は海辺にある道の駅に止まると大輔は前を向いたまま話し始めた。

どうやら有紗の方を向くつもりはないらしい、有紗は少し安心して自分も前を向いて大輔の話に耳を傾けた。

「有紗の今の気持ちは正直分からないけど…でも俺はこのまま2人の関係を続けていきたいと思ってる。」

それはつまり恋人で居続けるという事だ、その構図は分かっても気持ちが理解できなかった。

一度結婚の話が無くなったのに恋人で居続けることなど出来るのだろうか。

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