私は彼に愛されているらしい2
その中にある感情は怒り、どうしても許せない気持ちが有紗を突き動かし大輔と向き合わせた。

「逃げるんだったらここになんて来ていない!私だって…私なりに考えて向き合って逃げずにやってきたの。大輔からのメールだって逃げずにちゃんと返したじゃない、だから今ここにいるじゃない!」

強い憤りが拳を作り涙を浮かばせていく。

どうしてだろう、誰も分かってくれない。どうしてだろう、分かろうとしてくれる人が現れたのに違うと否定されるのか。

「勝手に逃げてるって決めつけないでよ!私は逃げてない!」

有紗のまっすぐな感情を受けて大輔は目を丸くしていた。

少しの間そのままでいると大輔は視線を下に逃がして小さく何度か頷く、そして申し訳なさそうに顔を上げて有紗の顔を見た。

「そうだな。逃げるんじゃなくて俺から離れようとして、が正解だったな。ゴメン。」

「…別に。」

「でも久しぶりだな、有紗がそうやって怒るの。」

なんとなく気まずくなった有紗が視線を逸らそうとすれば大輔から気になる言葉が聞こえてまた顔は戻っていく。

大輔は寂しそうだが穏やかな顔をしていた。

「ずっと…全部受け止めて我慢しているようだったから。…そうだよな、これが本来の有紗だ。」

そう言ってステアリングを握りしめた手の上に額をぶつけてため息が漏れる。

すっかり変わってしまった大輔の雰囲気に有紗は疑問を抱かずにはいられなかった。一体どうしたというのだろう。

「俺が焦り過ぎてたんだよ。…全部、俺が焦って突っ走ったからこうなったんだ。」

「大輔?」

「早く有紗を完全に俺の物にしたくて急いでた。…本当はもっと有紗の気持ちを考えながらゆっくり進めていけばよかったんだ。本当にごめん。」

手で隠されて大輔の表情は見えない、でも声が泣いているのではないかと思うくらいに切なかった。

こんな大輔を見るのは初めてだったのだ。

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