私は彼に愛されているらしい2
「俺をちゃんと見て、一緒にいる時間を重ねて、好きだって気持ちを伝えていくから。だからこのまま一緒に居て欲しい。」

困っているのか戸惑っているのか動揺しているのか、有紗の視線は揺れて定まらない。

ただ、逃げたいという気持ちは起きなかった。

この頬を伝っていく涙は辛く否定的なものではない、言葉は見つからなくてもその確信だけは有紗の中にあったのだ。

もう一度。

強く腕を掴んで引っ張られていた体が解放された、でもちゃんと手を繋いで今度は速度を合わせて歩いてくれている感覚に手を握り返したくなる。

何を求めているのだろう。

有紗は涙を流しながら大輔の左手を取って手を繋いだ。

ごつごつとした少し大きな温かい手はこんなにも優しい。それにようやく気付けたようで余計に泣けてきた。

「有紗?」

どこまで本当だろう、また追いつめられるかもしれないのに信じてみたいなんて中毒だろうか。

追いつめて自分の思うようにする姿が本当の大輔かもしれないのに、それでも大輔を選びたいのだろうか。

でも有紗は知っている。

大輔がどんな人間なのかは高校の時からずっと傍で見て感じてきた、友人ではない姿を見るのは初めてでも本質は変わっていないのだ。

「好きだよ。」

そう言って大輔は静かに、優しく有紗を包むように抱きしめる。

「有紗ごめん。ちゃんと大事にするから。」

言い訳かも知れないなんて疑う気持ちはもう無かった。

「ごめん。」

大輔の声が優しい。こんな声を聞いたのは一体いつ以来だっただろうか、こんな風に優しく抱きしめられたのはいつ以来だろうか。

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