私は彼に愛されているらしい2
話が途切れた隙間を窺って色鮮やかなプレートが目の前に置かれた。有紗は思わず感嘆の声を小さく上げてしまう。

何度来ても感動する見栄えに心が弾み、味の確証もあるから余計に気持ちも高まってしまうのだ。休日に自分を労うには十分すぎるほどの料理が現れて踊るように手を合わせてフォークを握る。

ここから先は美味しい料理と普段の何気ない会話を少し交わしてゆっくりとした時間を楽しむことにした。

やはり特に大輔に変わった様子は無い。

あの事件は彼の記憶からすっぽり抜けているようだと有紗は確信した。ということは知らずにやってしまった出来事に過ぎないのだろう。

どこか構えてきた分、肩の力が抜けて少し楽になった。料理もおいしいし、あのことは忘れて今まで通りの関係で行こう。そう考えると何だか楽しくなってきて自然と笑顔になってしまった。

「どうした?」

「うん?なんか幸せだなと思って。料理も美味しいしワインも美味しいし。」

余計なことを考えなくてすむし、それは心の中で呟いて柔らかくてコクのあるフィレ肉を口の中に放り込んだ。にこにこする有紗に不思議そうな顔をしているがそんなことは気にしない。

誰のせいで1週間無駄に疲れたと思っているんだと有紗は自分の世界に浸っていた。

解決した、そう思うと遠慮なしに自分のテンションを上げて今日の晩餐を楽しむことにする。やはり間違いなしに出された料理全てが美味しい。

食後のデザートも勿論最高の味で帰りの足取りはかなり軽かった。

「はー!食べたー!」

店を出たところで両腕を空へ伸ばして背中を反らせる、うまくリフレッシュ出来たことが嬉しくて笑みが止まらなかった。これで来週からも頑張れる。

明日一日を有意義に過ごす為に映画でも借りに行こうかと考えている時だった。

「俺、今日車だから送っていくわ。」

親指を立てて駐車場の方へ誘導する大輔に瞬きを重ねる。

そういえば大輔はワインを飲んでいなかったと今さらになって気付いた有紗は彼の言葉を理解するのに少し時間がかかってしまった。今までも居酒屋じゃなくてご飯だけの時は何回か送ってもらったことがある。

自分だけお酒を楽しんでしまったことに少し申し訳なく思ったが、誘われた身なので余計なことは考えないことにした。

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