私は彼に愛されているらしい2
化粧直しも身だしなみも問題はない。

何回も見直したから大丈夫だと分かっていても気になって落ち着かないのは何故だろうか。

学生の頃の、それこそ全ての感覚が初々しかった頃の初デートでもあるまいし長年付き合ってきた大輔との待ち合わせでこんなに落ち着かないなんて。

腕時計を見れば少し若さを感じてもっと落ち着いた雰囲気のものに変えようかななんて思い始める。

「ダメダメ。」

舞い上がって自分を見失いそうになり嗜めた。

胸元を掴めば服の下に隠された指輪の感触がする。

本来あるべき場所にない指輪は少しイレギュラーにもちゃんと肌身離さず身に付けられていることを大輔は知らない。

少なくとも有紗はそう思っていた。

でも有紗からこの秘密を明かすつもりはない、それは駆け引きでも余裕からでもないと思っているが真相心理は有紗にも分からなかった。

まだ自己防衛しているのかもしれない。

そうこうしている間に電車はホームに入り、有紗は人波に流されるまま電車の中に乗り込んだ。

待ち合わせの駅までは車窓からの眺めに気持ちを委ねよう、そうすれば幾分かの緊張は和らぐ筈だ。

人の気配と電車の揺れに身を委ねて有紗はまた胸元に隠された指輪に触れた。

「有紗!」

待ち合わせの駅のロータリーで立っていると見覚えのある車が近寄り、大輔が顔を出す。

その姿に有紗は安堵の笑みを見せた。

遅れるという連絡が無かったが、約束の時間から少し経っていた頃だったので心配していたのだ。

「ごめん、遅くなって。」

「ううん、お疲れ様。」

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