私は彼に愛されているらしい2
乗り込んですぐにシートベルトをしめると車はゆっくりと走り出す。

見慣れている筈のスーツ姿の大輔に落ち着いていた有紗の心臓も再び忙しくなり始めた。

「仕事、大丈夫だったの?」

「どうだろ。デートって言って帰ってきたからやっかみで仕事押し付けられてるかもしれない。」

「あはは。何それ。」

「男なんてそんなもんだよ。」

「うちの会社の人たちもそう言って帰った若い子に次の日絡んでる。どうだった?の嵐よ。」

「それ本当の最後まで吐かないと許されないパターンだな。」

うんざりしたような表情で呟く様子は経験者の匂いがして有紗は苦笑いを浮かべる。

「よく見てる人がいてさ、最近出社してくる方向が違うのは何でだって問いつめられた。」

「え?」

「有紗ん家、会社から見て俺ん家と逆方向にあるからさ。」

駐車場への入り方が違うと気付かれて絡まれたのだと大輔は続けるが有紗は疑問符が積み重なって少し混乱した。

「え、私の話?」

「…他に誰がいるんだよ。」

「かつての恋人たちかと…。」

ちょうど信号待ちで停まったこともあり、有紗の言葉に目を細くして視線で大輔は訴える。

その様子からして怒られたような気分になった。

「あ…謝った方がいい感じ?」

「いや。」

湿度の高い視線を外すと車はまたゆっくりと走り出す。

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