私は彼に愛されているらしい2

3.選んだ理由

「凍結が決まった。」

月曜朝の通常ミーティングで開始早々告げられたのは正式決定事項だった。

凍結とは開発段階の車両を放棄すること、つまりは事実上の開発チームの解散を告げられたことになる。

そこからはもう片付け以外に行うことは無かった。

予定されていた他部署との打ち合わせも中止、行く筈だった工場の立ち合いも中止。

自分が持つ設計書やデータの整理をして全ての設計士の情報を1つにまとめればこの車両に関わる仕事は終わる。

その日はもうすぐ傍まで来ていた。

外に出る予定が無くなった設計士たちは1日中大部屋でデータ整理に明け暮れることになる。

不必要な予備データも削除し、保管する上での最小限のものにする為の掃除が始まったのだ。

次の行先を打診される人もいる。

東芝などは早々に受け入れ先が決まり誰もから羨ましい目で見られたものだった。

やがて次々と受け入れ先を告知され、有紗にもついにお達しが出されたのだ。

「単刀直入に聞くけどさ、持田さん。」

2人きりの会議室に呼び出され少しの沈黙があったかと思うとチーフは言い出しにくそうに息を吐いた。

この空気には覚えがある。

良い話ではないな、そう瞬時に察した有紗は感情を表に出さないようにと静かに身構えた。

男社会の中で生きてきたのだ、これぐらいは慣れている。

「結婚する予定ってあるの?」

やはりそう来たか。

何かにつけて確認しておきたい女性限定のプライベート調査はまだまだ存在していたのだ。

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