私は彼に愛されているらしい2
「いや、ごめんね?こんなこと聞くのも申し訳ないし失礼かと思うんだけど…。」

言葉の裏側にある心は違う声を出していた。

面倒臭い、何で俺が。

申し訳ないと上っ面だけの台詞を吐き出す様は実に慣れた様子で哀れにも思う。

これを聞いて過去に女性社員を怒らせ問題になった管理職もいたのだ。

特にセクハラやパワハラなど下級社員にやさしい言葉が流行り出した今となっては訴えを起こされる可能性もある。

会社にも上司にも勝ち目はなく大きな傷跡を残すことは目に見えていた。

おそらくチーフは今、ある種の戦いに挑んで構えている状態なのだろう。

気持ちも立場も分かる以上、有紗としても特に噛みつく気はなかった。

少なくともこの時点では。

「私は…。」

「ほら、最近アレしてないでしょ?まあ…だから聞くのもアレかなーとかね!思ったりなんかしたりしてね!あははは。」

渇いた笑い声にポーカーフェイスを貫く予定だった有紗も眉を寄せた。

最初のアレはチーフ自身の左手薬指にある結婚指輪を指して、2回目のアレは野暮を意味して有紗に詰め寄ってくる。

要は彼氏と別れたんだろうから結婚の予定を聞くなんて野暮なことしてくないだけどさ、と言いたいのだ。

慣れてきても話したくもないのに細かいプライベート情報に踏み込んでくる風習は気持ちのいいものではない。

「これの事ですか?」

そう言いながらチェーンを服の下から引っ張り出して指輪を出した。

予想もしない場所からの登場にチーフも驚いたらしい。

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