私は彼に愛されているらしい2
「え?」

私、誕生日だったっけ?

そんなことを考えて直ぐに有紗は否定した。そんなことはない、真夏の暑苦しい日に生まれた有紗の誕生日はまだまだ先だ。

じゃあ昇格祝い?

それもしていないし、こんな中途半端な時期にはない話だろう。今は昼夜の寒暖差が激しい10月、それに年齢給と技能級は当たり前の金額しか上乗せされていない。

何かの記念日、でもない。

そもそも記念日という話をする相手でもないことに辿り着き有紗の中で考えることは放棄された。

「何これ。」

「花。」

「いや分かるけど、どうしたの?」

「プレゼント。」

だからその理由を聞いているんだって、そんな気持ちを込めてただひたすら、いやいやいやと繰り返した。

「貰い物?」

「まさか。俺が買ったの。」

「買った…?」

「そ。有紗にね。」

当然の様に言われても有紗にはこの状況が理解できない。今度は力ない声でまた、いやいやいやと繰り返した。

「物や食べ物で少しづつ餌付けしていこうと思って。」

「は?」

「言っただろう?結婚してくれって。」

大輔のその眼差しと言葉に有紗の体温と心拍数は一気に上昇する。思わず肩を上げてドアの方へと後ずさりすれば、退路を断つようにすかさず集中ロックをかける鈍い音が社内に響いた。

< 28 / 304 >

この作品をシェア

pagetop