私は彼に愛されているらしい2
エレベーターが1階に着けば、ドアの向こうに数人人が並んで待っていた。

どうやらこんな時間までエントランスで打ち合わせをしていたらしい。

疲労の色が見える団体が入れ違いにエレベーターに乗り込みすぐに扉を閉めて動き始めた。

「だから、親睦。夜も遅いことだし、たまには楽して帰っちゃいな。」

そう言って車の鍵を見せる沢渡に有紗は何も言えなくなってしまった。

ここは断った方がいい、それは自分でも分かっていたが断りにくい状況に選択肢は1つしかなくなってしまった。

「では…お言葉に甘えます。」

結局首を縦に振ってしまった有紗はそのまま沢渡に付いていく事になったのだ。

駐車場へ向かう間もいつものように変わらず他愛のない話をする沢渡、有紗は何となく沢渡の目を盗んで素早く手元で操作した。

駐車場にあった沢渡の車は予想通りというか、白いスポーツカーで型は古いようだ。

「結構長い付き合いかな。古いから中は配線だらけだけどね。」

「東芝さんが見たら美しくないって言いそうですね。」

「あー、だろうね。乗って。」

「お邪魔します。」

車に乗り込み家の近くの場所を教えると備え付けられているカーナビには触れずに何度か頷いた。

地元ではないと言っていたが沢渡は土地勘があるのか、近くにある駅名を言うだけでどういう道を使えばいいか分かったらしい。

普段から電車に乗ることのない人間が駅名で反応できたことに有紗は驚いた。

「駅名、分かるんですか?」

「まあね。」

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