私は彼に愛されているらしい2
しかしそんな沢渡の心理に気付かず有紗はさらに続けた。

「前に沢渡さん、さりげなく優しい言葉をかけて私の頭をぽんぽんって撫でてくれたじゃないですか。あれはちょっと…ドキドキしました。」

「これ?」

運転しながらも沢渡は有紗の頭をぽんぽんと撫でる。

「そう、これです。」

「何の反応も無いじゃん。」

「来ると分かっていたら身構えますよ。不意にされるからときめくんです。」

「鉄壁ガードの君が?」

沢渡の手が離れた頭の乱れを直しながら有紗は少し不貞腐れたように抗議した。

「女の人は結構これに弱いですよ?」

「何それ。かなり踏み込むな。」

「なんかこう…距離が近くなるのもいいんでしょうね。手を握るよりも断然近いです。」

思いの外、力が入った発言に今度はガールズトークモードかと沢渡は嫌気がさしてくる。

なんなんだ、この展開は。

望みが薄いと分かっていたとはいえ、この仕打ちはあんまりだと泣きたくもなる。

口を開けばやっぱり貴方は眼中にありませんでしたと訳せそうな言葉ばかりが出てくるなんてどういう仕打ちだ。

さっきまでの状況を忘れてしまったのかと問いたくなるほど有紗は通常モードになっていた。

早く目的地に着きたい。

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