私は彼に愛されているらしい2
そんなことも言えず、有紗は自分のトレイにあるサラダに手を付けた。

「久しぶりに会ったね。ごめんね長い間留守にしちゃって。忙しかったんでしょ?」

「それはもう…。急に他部署要望が入ってバタバタなんですよ。」

「あらら。そりゃ疲れちゃうな。有紗にあげるっていってたコラーゲンサプリ持ってきたから。これで乗り切って頂戴!」

「本当に!?めっちゃ嬉しいですー!!」

フォークを握りしめたまま小躍りする有紗にみちるは優しい笑みを浮かべる。こうやって疲れている時に最高の労いをくれるのはいつもみちるだった。

この人がお嫁さんだったら幸せだろうな。

有紗はいつも思うことを浮かべて目を細めて宙を見る。そしてふと思いつき、みちるの姿をもう一度見つめた。

幸せそうにご飯を食べる姿は好感が持てる、そんなみちるの左手薬指にはファッションリングが光っていた。まだエンゲージでもない指輪だと、申し訳ないがそう思って有紗は自分のパスタに目を落とす。

視界に入ってくるのは自分の左手、もちろんそこに光る物は無い。

そして頼んでも無いのに有紗の中で繰り返されるのは大輔の言葉とどうしようもない気だるさだ。不意に訪れた不安に負けて、どうしたらいいのか分からない状況からこのまま逃げ出したくなってきた。

そう言えば以前みちるもこんな状況になったことがあったと思い出して視線を彼女に戻す。

「ん?どうした?」

目を大きくして優しく尋ねてくれる仕草はまさに相手をその気にさせる魔性の技。なんて罪作りな人なんだと噛みしめながら有紗は疑問を口にした。

「みちるさんって、結婚しないんですか?」

それを口にした瞬間にみちるの目はさらに大きく開いて固まってしまう。

しまった、こんな聞き方では色々と誤解されてしまう。言ってしまったあとで気が付いたがもう言葉は取り消せなかった。

もし本人がしたいのに相手がそうじゃなかったらとか、結婚しないのは理由があるからなんじゃないかとか、むしろ結婚出来ないんじゃないかというマイナスな意味で裏読みされてしまったら誤解されてしまう。

有紗が聞きたかったのは純粋に二人は結婚するかどうかなのだが、そんなの本人にしてみれば放っておいてほしことだったかもしれなかったと後悔した。

< 37 / 304 >

この作品をシェア

pagetop