私は彼に愛されているらしい2
「設計書の番号…なんて凡ミスなの。」

項垂れるしか表現方法が思い浮かばないくらいに自分のミスを情けなく思った。有紗としては何度も確認作業をした後に提出したものだった筈、しかしそれは設計図の方で掲載される設計書の番号にはそこまで強く意識していなかったということだ。

「他のもそうみたいね。仕方ないから引き受けてあげるわよ。貸してみ。」

まさかの言葉に有紗の目が輝いて舞を捉える。

「居なかった分はしっかり手伝うから、ほら時間ないんでしょ?」

姉御肌な舞の言葉はしっとりとした優しさではない、どちらかといえば差し出してくれた手をこっちが掴まなければ何もしてくれない冷たさもあるのだ。それでも有紗は毎回がっちりと掴んでしっかりお世話になっていた。

それは今回も変わらない。

気持ちだけでなく、物理的にもがっちりと舞の手を掴んで有紗は歩き始めた。

「わっ!え、なになに?」

急に引っ張られたことに驚いた舞が声をあげても有紗はお構いなしに進んでいく。

「ちょっと、さらわれるー!」

君塚に手を差し伸べても、彼もまた驚いた表情で手を振って見送るだけだった。大部屋を出て突き進んでいくのはまだ誰も使用していない会議室だ。

幸運なことに30分後から使用されるこの場所の鍵は庶務さんのおかげで開いていた。

「えー?密室?」

おかしな方向に進んでいるようで舞がふざけて口にする。有紗は会議室に入ると扉を閉めて舞に向き合った。

そして溜めに溜め込んだ悩みをようやく口にしたのだ。

「公私共に、助けてほしいんです!」

「…は?」

半べそかいた有紗に若干引きながらも舞は去ろうとはしなかった。

「時間が無いので簡単に言いますけど、とにかく今は少しでもこの悩みを吐き出したくって、とにかく聞いてほしくて、図面の提出が終わったら詳しく聞いてほしいんですけど、今もさわりだけでも聞いてほしくて!」

「おーい!ちょいちょい!…聞いてあげるから落ち着いて話してみな?」

舞の言葉にグッと声を詰まらせた有紗はそのまま鼻から息を吸い込んでゆっくりと吐き出す。それだけで少しは興奮が落ち着いたようだ。

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