私は彼に愛されているらしい2
違う、誘っている訳じゃない。それは断じて違う。

そう言いたいのに頭の中がパンクしそうな有紗はは思うだけで何も声に出せなかった。逃げ出そう、逃げ出すしかない、でも体はまだ動いてくれない。

大輔の手が触れる、そう思った瞬間身を縮めるように体に力が入った。

そして大輔の手が額に触れる。

額、てっきり頬に来ると構えていた有紗は固く閉じていた目を大きく開いた。

「お前、熱あるんじゃないか?」

「へ?」

大輔が何の話をしているのか分からず、力の抜けた声が有紗から漏れる。

「熱い。」

「え?」

大輔は目を細めて不機嫌そうに呟くとハザードを付けたままの車を動かし始めた。しかしどこかに行くわけじゃなく、そのまま有紗のアパート内にある駐車場に入っていく。

いつか話をしたことがある有紗の部屋にあてられた場所へ迷うことなく車を停めた。

車を手放したばかりの有紗のスペースは空いているのだ。

サイドブレーキが大きな音を立てて上がり、大輔は無言のまま車から降りた。そして助手席側に回り、ドアを開けて有紗の手を取ると自分の方に引き寄せてを強引に車から降ろす。

「大輔?」

「部屋に戻るぞ。」

「ちょっと…。」

説明を求める有紗の言葉なんか聞く耳持たず、大輔は有紗の腕を掴んだまま部屋へと向かった。階段を上り、部屋の扉の前で鍵を開けるように無言の態度で促される。

促されるままに鍵を出した有紗はそこで初めて気が付いた。

「あれ…?」

体に力が入らない。

というか、鍵をかけた記憶が見つからずドアノブに手をかけてみると鍵をかけていなかったことに気づかされた。

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