私は彼に愛されているらしい2
「あり…。」

ありがとう、そう言いたいけど声にはならない。声もそうだが口もそれ以上動く気配がしなかった。

その状態を酌んだのか大輔はふわりと微笑み優しく有紗の頭を撫でる。

「まだいるから、何かあったらすぐに呼んで。」

その言葉に有紗は可能な限り首を横に振った。

ここにいればうつってしまう、それだけは避けないと。

「逆の立場だったら同じことするだろ。それにせっかくのアピールポイントだし、活用するに決まってんじゃん。」

いけしゃあしゃあと出てきたセリフに有紗はただでさえ赤い顔をさらに赤くして首を横に振った。

なんてこと言うんだこの男。弱っているところにつけこむなんて卑怯な奴め。

有紗なりの抗議の睨みを利かしても彼には全く通用しなかったようだ。むしろ僅かでも反応できる気力があったことを喜んでいるようにもみえた。

口角の上がった大輔が満足そうに目を細める。

「いいから寝ろ。気になるなら少し離れているし、面白そうな本もあるから読ませてもらってる。」

そういいながら触れた大輔の手が有紗の瞼を閉じさせた。

まるで催眠術のようだ、有紗の目はさらに暗さを増してそのまま深い眠りへと落ちていった。

体が重い、夢なんて見る訳がない、ただ自分の世界に浸っていくだけ。

完全に切れた電源がぼんやりと起動したのはどれくらいの時間が経ってからだろうか。

喉が渇いたな。

何か飲みたい、そう思って有紗は瞼を開けた。視線を横にずらすと俯いた大輔がいる。

「大輔…。」

力はないが通った声に反応して大輔が顔を上げた。手元で本を開いていたことから本当に読書をしていたのだと有紗は少し安心する。

「起きたか。何か飲む?」

「うん。」

冷蔵庫からペットボトルを取り出すと大輔はまた有紗の体を起こした。蓋をとって渡されたスポーツ飲料を口に含んで気付く。

体は想像以上に乾いていたようだ。

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