私は彼に愛されているらしい2
「…はあ。」

早く終われ、その思いだけで相槌をうった。

「その黒のニットとか無難過ぎ。可愛いよ?可愛いけどさ、もっと雑誌読んで勉強しないと女子力なくなっちゃうよ?こういう場に来るんだったら、ホラ!横に並ぶ皆みたいに華やかな格好しないと。」

「え?なあに、可愛いって言ってくれてる?」

「華やかって言ったんだって!勿論きみたちは可愛いよー?」

「やだ、私たち褒められてる。」

「地味な花が隣に居れば可愛さが際立つからね。」

そう言って周りの女子を盛り上げるギンガム男。

ついさっきまでは人のことを聞き出しては趣味が同じだ気が合うだ俺たちは似ているだなどと、ナンパの常套文句をオンパレードしていたのにすっかり落ちたと思い込んでいるのだろうか。

適当な返しに当たり障りのない笑顔でその気になるようじゃ大した男じゃないのだろうなと有紗は小さくため息を吐いた。

早く終われ。

有紗にとって本気でどうでもよくなった目の前のギンガム男は今まで出会った男性の中でも遠慮したいランキングに勢いよく食い込んでくる程のレベルだ。

早く帰りたい。そんな気持ちを両手に抱えて同じ列の端に座る千春に目を向けた。

場馴れしている千春は自分のターゲットを囲みつつも周りの様子も把握している最強の主催者だ。有紗からの視線を受け取った彼女は苦笑いを浮かべている。

どうやら千春も厄介な展開だということに気がついたらしい。

全員酒が入っているからか褒められた女性陣も男性陣も特に何も感じていないようだった。だからかギンガム男の口はさらに達者になっていく。

「有紗ちゃんさ、油断しない方がいいんじゃない?やっぱり苦労知らずの子には焦りってものが無いのかなー?」

「…は?」

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