私は彼に愛されているらしい2
おおよその値段のお金を取り出して机の下にある千春の手に静かに乗せる。

「有紗…。」

「ごめん、帰るわ。」

「有紗!」

今できる最大限の微笑みを見せると有紗はそのまま店を後にした。これも一つの社会勉強だと言い聞かせて夜の街を歩きだそうとする。

辛くはない、ただ気分が晴れないだけ。

有紗は空を仰いで唸り声を上げた。

「あー!」

消化できない思いを込めて叫んだものの、やはり少しも晴れなかったのは残念だ。

「理系女は恋愛にタンパクかと思ってたんだけど。」

舞の言葉が思い出されて有紗の表情が曇っていく。

「…違いますよ、舞さん。」

そう呟いた瞬間に有紗の中で感情の蓋が取れてしまったようだ。瞼が熱くなって口元に力が入る、でも負けたくなくて有紗は懸命に自分の感情と戦った。

どれだけ頑張ってもそんなに強くない今の精神状態ではすぐにでも負けてしまいそう。

そう考えた有紗は自分を誤魔化す為おもむろにカバンから携帯を取り出して不在が無いかを確かめた。

表示されていたのは新着メール有の印、何も思わずに操作するとそれが大輔からのメールであることに気付かされた。1時間は前のものだ。

「…用事が終わったら連絡して、か。」

用事ならたった今終わったばかりだ。

心の中で自虐気味に吐き出すと口元に笑みが浮かぶ。有紗は携帯を操作して門真大輔の番号を呼び出した。

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