私は彼に愛されているらしい2
恋より仕事、キャリアだキャリア。


そんなことを考えていた翌日に事件は起きた。





一人でくつろいでいた休日の夜、色気のない初期設定のままの着信音が有紗の部屋に響いた。

着信:門真大輔

「大輔?」

画面に大きく表示された名前を呼んで有紗は眉を寄せる。21時を回った辺りの土曜日に何の用だと明らかに不満げだ。

突然の電話に疑問符が浮かぶがそれもすぐに解消された。

「あー…あれか。」

そう呟いて有紗は納得の唸り声を上げる。そういえば少し前に会った時、今日の予定を聞いていたような覚えがあったのだ。

そんでもって寂しくなったら電話するかもとか言われていたような気がする。でも、そんなの知るかと一蹴したような気もする。

だからすっかり忘れていたのだ。

今日は大学時代の友人の結婚式の為に少し遠出をしていて、ばか騒ぎになるであろう2次会が終わったらアパートに帰ってくるということに。

だがそれは有紗の部屋ではない。

泊まればとんでもない所まで付き合わされる筈だとボヤいていたことも含めて、今日の大輔の予定は有紗には関係のない話だった。互いに一人暮らしの部屋を出入りしたこともあるとはいえ、恋人でも何でもない訳だし。

いや、何でもという訳ではない。有紗と大輔、二人は高校時代からの友達という仲だった。

大学も専攻こそ違うが同じ学部に入り、同じような地域に就職して、不定期だが割と他の友達よりも短いスパンで会っている程の仲だ。

しかし恋人ではない。勿論、体の関係もない。本当のお友達なのだ。

少なくともこの電話がかかってくるまでは有紗そう思っていた。

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