私は彼に愛されているらしい2
「…やってく価値もなかったけどさ。何か飲む?あったかいのがいい?」

吐き捨てるように呟いて空気を変えようとキッチンに向かう有紗の体が衝撃を受けて止まってしまった。右腕に感じる圧力に有紗は思わず二度見する、さっきの衝撃はすれ違いざまに大輔が腕を掴んだからだと理解した。

「え?」

「まあ待て、有紗。」

「なに?」

「今日、何があった?」

散らかったままのリビングに向かっていた大輔の視線が方向を変えてまっすぐに有紗の目と心を射抜く。やましいことが無くても戸惑ってしまいそうな強い眼差しは、後ろめたい気持ちが拍車をかけた。

思わず目を逸らして泳がせる自分に少し焦る。

「え、何って…?」

「らしくない。荒れてんの自分で気付いてるか?」

「それはだから…出る直前まで支度してたから。」

「部屋の話じゃない。お前の気持ちの話だよ。滅多に使わない言葉使ってる、まだ何かあるんじゃないのか?」

大輔の言葉を軽くかわせなかった有紗の言葉は詰まってしまった。

「レベルが低いとか、ランクがどうとか。そんな人の価値を付けるような下らない話、いつもの有紗なら絶対に言わないことだ。だろ?」

体が揺れる。

それは大輔と会話したことによって一度落ち着いたはずのもやが、蓋をしたいほどのドロドロとした醜い感情がまた心の中で広がっていく気がしたからだと有紗は思った。

やばい。

そう感じて有紗は苦笑いを浮かべる。

「まあ、私にも色々あるよ。送ってくれてありがと、その本持って帰って。」

「言えよ。聞いてやるから。」

「寝たら忘れる。だからもう…。」

「直接有紗に言われた話でもないし、友達の話でもないんだろ?」

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