ノスタルジア~喫茶店を訪ねて~
 私が中学生になったばかりの頃、東京へ引っ越したので、もう10年ぐらいになるのだろうか。10年と言う年月は、東京での生活に順応するのに十分すぎた。
 けれども、楽しい家族の姿や、女の子が兄を呼ぶ声、友人が家族の話をする時、東京に来る以前の生活が、ふと鮮やかによみがえってくるのだ。
 もう以前の生活に戻れないことは、分かっていた。時間は現実を残酷にしていく。戻ることができないまでに、母と私は東京に根付き、手遅れだった。
 いや、東京に来る以前に、離婚する前からもう手遅れだったのかもしれない。そのことに気づいたのは、ここ数年だった。
< 13 / 128 >

この作品をシェア

pagetop