ノスタルジア~喫茶店を訪ねて~
 ある晴れた土曜日。今日は、母親の再婚相手との顔合わせの日だ。少し高級なレストランで、待っているからといって、母は一足早く先に行ってしまった。
めったに着ないピンク色のワンピースを着て、行く支度を整えていた。
 玄関のコール音がし、私は洗面台からあわてて玄関に急いだ。見慣れない宅配業者で、箱になにやら英語のロゴマークが見えたような気がしたが、瞬きをすると消えていた。
印鑑を押して、その箱を受け取った。
(お母さん、通販でも頼んだのかな)
そういえば、最近宅配を装った、事件があったような。もしかして、爆弾が入っているとか。
 急に不安になり、箱から手を離した。床に落ちた箱は、軽い音を立てた。
 不思議と私は、中身が安全であるような予感がした。恐る恐るガムテープを剥がした。
 リビングの時計の針の音が、急に消えた。息づかいと心臓の音が、頭の中に響く。
箱の底には、一枚の手紙だけが入っていた。
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