ノスタルジア~喫茶店を訪ねて~
 「何で、引き止めてくれないの。なんとも思わないの」妹の悲痛そうな声が、部屋中に響いた。刺すような声はやがて、泣き声に変わり、妹は床にへたり込んだ。奥からもやもやしたような、どろどろしたような感情が出てきそうだ。それが何なのか説明ができなかった。妹の言う通りだ。泣いている妹を見下ろしながら、俺は自身が酷薄な人間だと思った。
 妹は、ドアを荒々しく開けて、部屋から飛び出していった。隣の部屋から妹の泣き声が聞こえた。
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